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【銀英伝】アーレ・ハイネセンらの長征一万光年【歴史ネタ】

歴史ネタ編

帝国暦164年、アルタイル星系の極寒の惑星で奴隷労働に従事させられていた共和主義者たちが、ドライアイスの宇宙船で脱出に成功した。

帝国軍の追撃をかわして彼らが新天地を発見したのは、帝国暦218年。

「半世紀以上の歳月と半数以上の犠牲を必要とした」(OVA40話)という。復活させた宇宙暦で517年、初代の市民16万人余によって新国家が建設された。

後世の歴史家によって「長征1万光年」と称される、自由惑星同盟の建国の物語である。

その誕生時において劇的ともいえるドラマをもつ国は少なくない。とくに新しい国ほどその傾向が強いかもしれない。

その点、日本は自然発生的な国であり、『古事記』(*1)を含めて、後の世代に語り継がれるようなドラマチックな建国物語は持たないと言えるかもしれない。

ところで、文字通り「長征」のドラマをもつ国がある。中華人民共和国である。

1912年、辛亥革命の進行により、ついに清王朝が倒れ、中華民国が成立するが、その後も大総統に就任した袁世凱(*2)が帝位につくなど混乱を極め、結局、中国は各地に軍閥勢力が割拠する分裂状態に陥ってしまった。

これを収拾し、ほぼ全中国の統一を成し遂げたのが、蒋介石(*3)の国民政府である。

一方、蒋介石と対立した共産党は、中国南部の江西省瑞金に「中華ソビエト共和国」を樹立する。これに対して、蒋介石は再三にわたって攻撃をしかけた。

大打撃を受けた共産党の紅軍は、北への脱出を決意。

1934年10月にはじまる「長征」である。

スタートは農民も含めて約10万人。太渡江の渡河、大雪山越えなどをへて、陝西省の延安にたどり着いたのは1年後。総踏破距離1万2500キロメートル。スタート時のメンバーで最後まで無事だったのは、わずか8千人ほどだったという。

現代史でもっとも劇的なドラマの一つかもしれない。

だが、農民を地主から解放し、全中国の統一を成し遂げた毛沢東は、後に「大躍進計画」(*4)で2千万人もの農民を餓死に追いやり、「文化大革命」(*5)で数百万人もの人々を粛正してしまう。

誰よりも人民の幸福を想ったはずの英雄が、最後には恐怖政治を行う暴君と化して没したのである。歴史は本当に一筋縄ではいかない。

さて、アーレ・ハイネセンら共和主義者たちの「長征」の場合、あくまで「圧政からの脱出」という性格を持っていた。

おそらく聖書の世界に慣れ親しんだ人だったら、前13世紀頃に行われたモーセの「出エジプト」(エクソダス)の例を思い出されるのではないかと思う。

エジプト新王国で強制労働に従事させられていたヘブル人たちが、王の圧政にたえかねて、パレスチナへと脱出した物語である。旧約聖書の「出エジプト記」にも載っているが、エジプト軍の追撃をうけていたモーセ一行の前で紅海が2つに割れたり、また神から「十戒」を授かったり、「アーク」の製作を命じられたりと、多彩な伝説に満ちている。

ただ、この物語は、脱出そのものは史実ではあるが、その他は多分に脚色である。

史実そのものの脱出劇となれば、近代史において2つの主な出来事がある。

ひとつはピルグリム・ファーザーズによる「新天地」への入植である。

1620年、ピルグリム(分離派教徒)と呼ばれるピューリタン(*6)の一団を乗せた帆船メイフラワー号がアメリカ大陸に到着した。イギリスの絶対王政下での抑圧を脱して、信仰の自由を求めてやって来たのである。

百名ほどの入植者のうち、最初の冬を越せたのは半数ほどで、ネイティブ・アメリカンたちにトウモロコシの栽培法を教えてもらったりしながら、なんとか植民地を建設した。

この人たちの子孫が、後にネイティブ・アメリカンを滅ぼし、アフリカ人を奴隷としてこき使いながら、「大なる国」(*7)を建国する。

そして、もうひとつはボーア人の「グレート・トレック」である。

19世紀の前半、イギリスはアフリカ南端を植民地にしたが、そこには17世紀に移住してきたオランダ人移民の子孫であるボーア人たちがいた。

イギリスの支配を嫌ったボーア人たちは、北方の内陸部へと逃れる(グレート・トレック)。そして「襲いかか原住民たち」の執拗な攻撃を排除しながら、「新天地」にてトランスヴァール共和国とオレンジ自由国を建国した。

後にイギリスと激しい抗争を繰り返すが、20世紀の始め頃、これらの国々が合体して「南アフリカ連邦」を成立させた。だが、ネルソン・マンデラが大統領になるまで、かのアパルトへイトで国際的に非難を浴び続けることになる。

人それぞれの正義というが、新天地での建国の理想に燃えて旅立った人たちが、一方で他の人々にとっての加害者となる。

それはヨーロッパで迫害され続けてきたユダヤ人たちが戦後に建国したイスラエルの例でもしかりである。

『銀英伝』の面白い点のひとつは、「自由と民主主義」の国である自由惑星同盟を「正義と善」の存在として描かずに、すでに建国の理想を失って久しい腐敗した国家として描いている点にあると思う。『スター・ウォーズ』だと、「帝国=悪」であり、自由と民主主義を目指す側が「善」というふうに、何の疑問もなく初期設定されている。

だが、歴史を見据えた慧眼の持ち主はどちらだろうか。

(*1)天武天皇(在673~86)が稗田阿礼に命じて朗習させたが完成に至らず、711年に元明天皇が太安万侶に命じて阿礼の口朗するところを筆記させたという。上巻は神代、中巻は神武から応神天皇まで、下巻は仁徳から推古天皇まで。

(*2) 1859~1916年。日清戦争後に清の官吏として西洋式軍隊である北洋新軍を結成。軍機大臣にまでなるが帝に龍免される。その後、清朝打倒の辛亥革命が起こると、清は北洋軍閥の実力者である袁に全権を委任して革命鎮圧にあたらせたが、彼は革命派に寝返って中華民国の大総統に就任。だが、皇帝になろうとしたため、各地で武装蜂起が相次ぎ、帝政を取り消した。その後すぐに病死する。

(*3) 1887~1975年。日本の陸軍士官学校やソ連に留学し、孫文亡き後、国民党の指導者として国民革命軍総司令に就任。北方軍閥の打倒(北伐)を行ってほぼ中国を統一した。その後、毛沢東の共産党と手を組んで日本軍と戦うが、戦後に国共内戦になり、毛沢東に敗れたため、台湾に逃れた。

(*4) 1958年に始まった急進的な社会主義建設運動。この時に人民公社が設立された。だが、鉄の増産をはかるため、農民に原始的な製鉄を強要し、大飢餓につながった。この運動の失敗により、毛沢東は国家主席辞任を余儀なくされる。

(*5) 1965年からほぼ10年間に渡って中国全土で繰り広げられた大衆運動。「走資派」を一掃するという名目で毛沢東が扇動し、そのレッテルを張られた人が多数粛清にあった。実態は毛沢東が権力の再奪取を意図したものだという。死者2千万という説もある。

(*6) イングランドにおける改革派プロテスタント。国教会から旧教的なものの浄化(ビューリファイ)を指向した。チャールズ1世がピューリタンを弾圧したことは、共和革命のひとつのきっかけになった。

(*7) この国はほんの数十年前まで「世界最大最悪のアパルトへイトの国」として悪名高かったが、今では「民主国家の盟主」を自任し、日夜、他国の粗探しに励んでいる。

「銀英伝」には歴史が満ちている――気ままに歴史ネタ探求

歴史ネタ編目次 http://anime-gineiden.com/page-890

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