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【銀英伝】地球教【前編 歴史ネタ】

歴史ネタ編

さて、地球に対し面従腹背でのぞんでいるルビンスキーの思惑はともかく、フェザーンの真の目的は、地球による全宇宙の支配である。

つまり、表の顔は商業国家だが、裏の顔は「地球教」というわけだ。

銀河帝国と自由惑星同盟という二大国の争いのみならず、そこにフェザーンという経済支配をもくろむ第三者が描かれることで、物語にぐっと重層感が加味されているが、さらにそのフェザーンを陰で操っているのが地球であり、しかもそのフェザーンの自治領主は地球教徒を化かしているという、何とも味わい深い設定(*1)である。

この地球教の目指すところは「祭政一致の神権政治」である。

しかも、地球による支配を正当化する論理は、かつて宇宙の盟主であった頃の特権を取り戻したいという負の欲望が、単に形を変えただけものである。

『銀英伝』ではキリスト教と地球教との関連が時々示唆されていることに注目したい。

「キリスト教は、最高権力者を宗教的に洗脳することで、古代ローマ帝国を乗っ取るのに成功したのだ。それ以後、キリスト教がどれほど悪辣に他の宗教を弾圧し、絶滅させたか。そしてその結果、ひとつの帝国どころか文明そのものを支配するにいたった。これほど効率的な侵略は類を見ない。それを再現させてやろうというのに~」(第3巻)

これはルビンスキーが地球教を念頭において語ったセリフである。

ちなみにOVA版では「古代ローマ帝国」が「神聖ローマ帝国」に替えられている。

「太古、われらが地球の上に君臨したローマなる大帝国も、衰弱の時代にある一神教を国教とし、それによって後世の歴史と文明を支配したのだ。留意すべき故事であるし、指標とすべきであろうな」(OVA90話ド・ヴィリエ談)

ここで私は、地球教と二重写しの姿で「ある存在」を思い出す。

バチカン市国。全世界に信徒10億人を有するカトリックの総本山である。

だが、かつては全ヨーロッパを支配したローマ・カトリック教会とその聖職者たちも、今ではローマ市内の一角に小さな独立国を有する存在にすぎない。

この世界最小の国は、法王が立法・行政・司法の全権を掌握する完全な祭政一致の国家でもある。

1世紀にパレスチナで誕生したキリスト教は、使徒たちの熱心な布教活動もあって、ローマ帝国に徐々に広まっていった。

その時々の皇帝が迫害や弾圧を加え、殉教者も数多く出たものの、信仰は野火のように広がっていき、ついに313年には公認(*2)される。

392年、テオドシウス帝(*3)は、死に際して帝国を東西に分割して2子に分け与えた。

476年、ゲルマン人の侵攻によって西ローマ帝国は滅亡し、彼らはそのままローマの諸都市に住み着いてそれぞれの王国を築き上げた。

だが、宗教は滅びなかった。

ローマ・カトリック教会は、ゲルマン諸族に熱心に布教をし、次々と改宗していったのだ。

一方、ローマ帝国時代から総大主教のいる有力教会が五つ(*4)あり、その内のローマ教会とビザンチン帝国のコンスタンティノープル教会とがライバル関係にあったのだが、聖像崇拝問題(*5)をきっかけに両者の決裂が必至となる。

そこでローマ・カトリック教会は、かつて改宗に成功したフランク王国(*6)を政治的な保護者として求めた。

フランク王国の宮幸カール・マルテルの子ピピンは、本来なら帝位継承権のない自分が教皇から新王としての正統性を認められたその代償として、イタリア遠征でロンバルド王国から領土を奪って教皇に寄進した。

これが「教皇領」のはじまりである。

800年、積極的な外征で領土を拡張していたピヒンの子カールに、ローマ・カトリック教会は「ローマ帝国皇帝」の帝冠を授けた。

なぜこんなことができるかというと、教皇は世俗の国家の上に立つ存在とされるからである。

また、ローマ教皇から「ローマ帝国皇帝」の帝冠を受けたということは、かつてのローマ帝国が復活したということ。

一般にこれが、ローマ・ゲルマン・キリスト教の3つの要素が融合した「西ヨーロッパ」世界の始まりと言われている。

いわゆる「西欧文明」の基礎が作られたわけだ。

だが843年、全子分割相続の伝統をもつ王国は、カールの3人の孫に分割されてしまう。962年、教皇は今度は東フランク王国のオットーに皇帝の帝冠を授けた。

これは後に「神聖ローマ帝国」となり、ナポレオンに滅ぼされるまで存続する。

(後編につづく)

(*1)余談になるが、「人類の母なる故郷」地球をセンチメンタルの対象とせずに、陰謀の本拠地として人間の暗黒面の象徴であるかのように描いた設定は凄い。

(*2) コンスタンティヌス帝(副帝306~正帝310~337年) による「ミラノ勅令」。

(*3)在379~395年。帝国の東をアルカディウスに、西をホノリウスに分け与えた。

(*4) ローマ、コンスタンティノープル、アンティオキア、エルサレム、アレクサンドリア。

(*5) ローマ教会は布教の必要上、聖像の使用を認めたが、726年、ビザンチンの皇帝レオン3世は禁止してしまう。

(*6)西ローマ帝国滅亡後のゲルマン諸国家のひとつ。メロビング家のクロービスによって建国された。5世紀末より他の部族を次々と征服し、今日のフランス全土を支配する国家となった。

「銀英伝」には歴史が満ちている――気ままに歴史ネタ探求

歴史ネタ編目次 http://anime-gineiden.com/page-890

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