【銀英伝】イゼルローン要塞の攻略【歴史ネタ】
宇宙暦796年、帝国暦487年、アスターテ会戦での同盟軍の崩壊をくい止めたヤン・ウェンリーは、その功績により第13艦隊の司令官に任ぜられる。
と同時に、ヤンは最初の任務としてイゼルローン要塞の攻略を命ぜられた。
ヤンは艦艇ヒューペリオンで並み居る副官や参謀たちにこう言った。
「難攻不落のイゼルローン要塞をおとすには、外からだけでは不可能だ。内部に潜入し中 枢部を抑えてしまうしかない」(OVA6話)
こうして、ヤン艦隊は、シェーンコップらローゼンリッターが偽装して乗り込んだ帝国軍の巡洋艦を要塞內部に侵入させ、司令部を乗っ取る作戦(*1)を決行する。
味方の血を一滴も流さずに見事、成功した。
以後、ヤンは「奇跡のヤン」「魔術師ヤン」と呼ばれることになる。
さて、昔から「城をおとす」ための常奪戦術だったのが、中に味方の兵を侵入させて城門を開けさせるという方法だが、通常はその段階に達するまでに多大な犠牲を要した。
だから敵に内通者や裏切り者をつくることで、味方の労を少なくするという方法もあった。 だが、ヤンの取った戦術はこれとは違う。あえて範を求めるとすれば、歴史そのものではなく、ホメロス(*2)の叙事詩に描かれたトロヤ戦争の出来事になる。
いわゆる「トロヤの木馬」である。
かつてエーゲ海を挟んだ小アジアの沿岸にトロヤという王国が栄えていた。
ある時、この国の王子がスパルタ王の妻を誘拐して連れて帰ったため、ギリシア連合軍がトロヤに侵攻することとなった。
だが、難攻不落のトロヤの城塞は中々おちない。そこで一計を案じたギリシア軍。
大きな木馬を造って、中に兵士を隠し、撤兵と同時に放置した。
トロヤは戦利品としてそれを城内に引き入れてしまう。
だが、その夜、木馬から兵士が出てきて城門を開いたため、トロヤは陥落してしまう。
この「トロヤの木馬」は叙事詩「イリアス」に描かれた出来事であるが、昔は単なる伝説と思われていた。だが、19世紀後半、ドイツ人シュリーマン(*3)がこれを史実と確信して、小アジアでトロヤ遺跡の発掘に勤しみ、成し遂げた。
今日では前1200年頃の様子とされているが、叙事詩の内容が事実かどうかに関しては諸説あるという。
ローゼンリッターが偽装して乗り込んだ帝国軍の艦艇も、イゼルローン要塞にとってまさに「トロヤの木馬」と化したようだ。
(*1) このエピソードは原作版とOVA版でかなり違う。原作では、要塞指令室警備主任レムラー中佐は、指令室に撤かれたゼッフル粒子に屈し、また侵入した偽装帝国軍軽巡に身を潜めた技術兵が、要塞内に催眠ガスを流すことで、要塞の無力化に成功している。また、シュトックハウゼン艦隊のおびき寄せ方も異なっている。総じて原作版の方が現実味がある作戦といえる。
(*2) 前9世紀頃のギリシアの詩人。 叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』の作者といわれている。
(*3)1822~90年。子供の頃に読んだ挿画入りのホメロスの本に魅了され、史実と確信する。実業家として成功した後、夢であったトロヤの発掘に乗り出した。
「銀英伝」には歴史が満ちている――気ままに歴史ネタ探求
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