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キルヒアイスの人物像にせまる

帝国キャラ編

キルヒアイスの傑出した能力は、自覚的な努力によって形作られたものであった。

「『ジーク、ラインハルトのことをお願いしますね』

現在グリューネワルト伯爵夫人となった女性のことばは、キルヒアイスの魂に、黄金の 文字で刻印されていた。ミューゼル家の姉弟に出会わず、このことばを受けることがなか ったら、キルヒアイスは軍服をまとう人生とおそらく無縁でありえただろう。彼が戦うの は、この姉弟のためであり、そのためだけであったから」(外伝3巻)

「ラインハルトは、つねにラインハルトであったが、キルヒアイスは自らの意識と努力で キルヒアイスになったのである」(外伝「朝の夢、夜の歌」)

つまり、彼はラインハルトと夢を共有し、彼の覇道の成就に尽くすため、意識的に「腹心として自分はこうあらねば」と自己形成をしてきたのである。彼としては、ラインハルトのそばにいるためには、そもそも軍人になる以外の選択肢はなかったのだ。

キルヒアイスが典型的な軍人のように腕力を誇示したり、変に「男らしさ」を強調するために威嚇的・強圧的にならないのも、もとはといえば彼の精神要素が戦闘的でないからである。

キルヒアイスは温厚で優しい、柔和な性格の持ち主である。白兵戦と射撃が優れているのも、彼が好戦的だからでなく、単に秀でた運動能力の賜物であるにすぎない。

したがって、キルヒアイスという人物をより深く理解するためには、彼の軍人としての業績などよりも、むしろそう振る舞うことを自らに課す彼の内面世界がどうなっているのか、その点を注意深く探っていく必要がある。

まず、ありきたりだが、ある人物の実像を考える場合、家庭環境を顧みることが基本だ。

キルヒアイスの両親は平民階級に属し、平凡で善良な小市民であった。父親は蘭の花を栽培するのが趣味の下級官吏であり、どちらかというと堅物で体制の遵法者という立場だろう。彼が帝国暦485年6月の「聖霊降臨祭」に帰郷した時のエピソード(外伝3巻)をみても、彼の家庭は総じて普通で、温かく、また慎ましかったといえる。(*1)

キルヒアイスの温厚で優しい人柄は、そんな家庭環境で育まれた面も大きいと思う。

彼は善良で、忠誠心に厚く、公明正大な人物である。しかも、単に性格的に良性というだけの人畜無害な存在ではなく、白兵戦や射撃などの戦闘技術では天才的な能力を有する 一方、艦隊を率いても一流の用兵家としての手腕を発揮する。

つまり、彼は戦士・軍人としても完璧なのだ。

そして、キルヒアイスは優しい。万事に控え目な青年だが、しかしそれだけでは表現し切れない奥深さも備えている。(*2)

ラインハルトとキルヒアイスが初陣の地である惑星カプチェランカに赴任した時のエピソードを思い出したい。

キルヒアイスは、基地の一角で無力な女性に対する暴行に及んでいた先輩兵士たちを見つけると、強い慣怒と不快感に突き動かされて、相手が6人にも関わらず挑みかかった。

また、彼らの謀殺をはかったブーゲンベルヒ大尉が、アンネローゼのことを「売女」呼ばわりしたことも、絶対に許さなかった。

彼は、ラインハルトが命乞いをする大尉を射殺することにも同意した。

さらに衛星クロイツナハⅢで警察の麻薬捜査に協力したのも、写真で見せられた凄惨な麻薬禍に対する彼の憤りが動機としてあった。

キルヒアイスは、表面こそ穏やかだが、心の奥底には不正なもの、邪悪なものに対する烈火のごとき怒りを秘めているのだ。

むろん、これはラインハルトも同様だが、彼と違うのは滅多に言動に出さないことであろう。

そして、言うまでもなく、その原体験はアンネローゼが宮廷に連行されたことだ。

ある日、隣家にやってきたラインハルトと姉のアンネローゼは、彼にとって特別な存在となった。キルヒアイスにとって、アンネローゼは憧れの女性だった。

そして、他の誰にも侵せない、3人だけの神聖な世界が築かれた。

「三人が三人だけでいるかぎり、権力も、武力も、そして野心も必要ないものだった」(外伝1巻)

前述したように、ラインハルトにとって姉は母親としての役割も兼ねていたが、キルヒアイスにとっても、彼女は常に優しく温かく見守ってくれる女神のような存在であった。

だからこそ、その大切な女性を奪った皇帝を、ゴールデンバウム王朝を、社会体制を、彼は決して許すことはできなかった。

その憤りを原動力とした点で、キルヒアイスはライ ンハルトと出発点を同じくする。ゆえに、彼はラインハルトと共に歩む決心をすることができた。

また、ラインハルトに付き添うことは、キルヒアイスにとって神聖な誓約でもあった。

「ジーク、弟と仲良くしてやってね」

アンネローゼが何気なく発した言葉は、キルヒアイスにとってたとえ死んでも守り通さなくてはならない人生のテーゼであったのだ。

「キルヒアイスにとって、重要なのはアンネローゼの愛を求めることではない。彼がアン ネローゼを愛したということ」(外伝「汚名」)

カイザーリング男爵がヨハンナを生涯愛しつづけたその姿を間近に見て、彼はそう思ったという。

陳腐な表現だが、そんな愛のために生き、愛のために殉じたのが、彼の短い人生のすべてではなかっただろうか。

「アンネローゼさまにお伝えください。ジークは昔の誓いを守ったと・・」(OVA26話)

彼の最期の言葉には、そんな彼の想いと人生のすべてが集約されている。

(*1)ヴァンフリート星域会戦の合間にキルヒアイスは8年ぶりに生家に帰宅した。家族でごく日常的な会話が交わされ、彼は持ち主が代わった隣家を訪れたり、学友と再会したりしている。

(*2)「ラインハルトは、キルヒアイスの精神に、氷山を感じることがある。表層にあらわれぬ存在の、静かで、巨大で、深く、厚 く、充実していることを」(外伝3巻)

ラインハルトと帝国軍の諸将たち――名提督列伝

帝国キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-63

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