【銀英伝】帝国民衆による国民軍の結成【歴史ネタ】
「同盟とローエングラム体制下の帝国とは共存できるはずなんだ。おかしな教条主義や原 理主義に陥らない限りね」(OVA31話)
「別に全人類が単一国家である必要はないさ。同盟と帝国が併存したって一向にかまわな い」(OVA33話)
ヤンは、ラインハルトが帝国の実権を握り、民衆のための政治を行うのをみて、同盟と帝国との共存の道を模索していた。
だが、第3の勢力によってそれを阻まれてしまう。ルビンスキーは言う。
「新帝国と同盟とが不倶戴天の敵同士になるように仕向けるのだ」(OVA29話)
こうしてフェザーンは、幼い皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世を誘拐し、同盟に亡命させる計画を策動させた。
一方、フェザーンに踊らされる気はさらさらないラインハルトだが、これに乗じて、フェザーン回廊の自由航行権と同盟を討伐する大義名分を手に入れようとする。
そして、元帝国軍大佐シューマッハとランズベルク伯アルフレッドによって、幼帝誘拐が実行された。
愚かな同盟の政治家たちは、亡命した皇帝を擁する「銀河帝国正統政府」なる政権と手を結んでしまう。
かくして、同盟と帝国との共存の芽は摘まれた。
「今回のことによってわれわれ同盟は、帝国の反動勢力の共犯者になってしまったといえるんだ。ローエングラム公の開明政策を支持する帝国の民衆は、ゴールデンバウム家や門閥貴族を憎むのと同様に、自由惑星同盟を憎むようになる」(OVA38話)
このヤンの危惧は現実のものとなってしまう。
「軍籍にない平民階級の青年たちが、職場や学校から軍の帳簿事務所へ駆けつけるようになったのである」(OVA41話)
こうして、帝国の「国民軍」が出来上がっていった。
さて、この辺りのストーリーの流れは『銀英伝』の中でも分かりにくいところなので、やや説明が長くなってしまったが、特権支配から解放された平民たちが国民軍を結成する例となると、またしてもフランス革命の事例になるだろうか。
どうやら、1789年の革命勃発から1815年のナポレオンのセント・へレナ島流刑までの激動の4半世紀は、作者の田中氏を大いに刺激したようだ(オスカル(*1)とラインハルトも何となく似ているし・笑)
1791年、フランスで進行する革命に警戒心を抱いたオーストリア皇帝とプロイセン国王は、ピルニッツで「必要とあらば武力行使をする」と宣言した。
これに対して、新憲法下で立憲君主制となったフランス立法議会は開戦を決意する。
92年、フランスはオーストリアに宣戦布告。一方、国境ではブラウンシュヴァイク公率いるプロイセン軍が集結しはじめ、議会は「祖国の危機」を宣言し義勇兵を募った。
これに応えて全国から志願者が続々とパリに集結した。
史上初とも言われる「国民軍」の結成である。
同年9月、封建的支配から解放された平民たちが主体の革命軍と、ブラウンシュヴァイク公指揮下のプロイセン軍がヴァルミーで激突した。
プロイセン軍の背後にはオーストリア軍と亡命貴族軍も控えていたが、革命軍は必死の抵抗で敵の撃退に成功した。
そのわずか1日後、フランスは民主共和制に移行。
翌年には、旧体制の象徴であった国王ルイ16世がギロチンで処刑された。
以上がフランス革命初期の出来事である。
旧ゴールデンバウム王朝の専制支配から解放された平民たちが、自主的に兵役に志願した心理を、「ひとたび入手した社会的・経済的公正の権利が失われ、特権階級が復活することを彼らは恐れずにいられなかった」(第4巻)と『銀英伝』は説明する。
この辺りの心理は、フランス革命の成果を守るためにパリに終結した平民の義勇兵たちと軌を一にするかもしれない。また、フランス革命軍の最大の敵手が「ブラウンシュヴァイク公」というのも、偶然にしては出来過ぎた話に思える(笑)。
(*1) 池田理代子原作『ベルサイユの ばら』の近衛連隊長。男装の麗人で王妃マリー・アントワネットに仕えた。
「銀英伝」には歴史が満ちている――気ままに歴史ネタ探求
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