銀河帝国ではなぜ「共和革命」が起こらないのか?
銀河帝国の開祖ルドルフは、
「彼が優秀と認めた人材を選んで特権を与え、帝国を支える貴族階級をつくった」(OVA40話)。
その結果「制度化された盗賊」(OVA58話 ロイエンタール評)とでもいうべき特権階級が出現した。
人間というのは、一度えた特権は手放したがらない。だからルドルフ死後の共和勢力の蜂起に対しても、貴族たちは民衆を弾圧する側に回った。
「銀河帝国の支配階級にとって、平民は労働と租税負担によって支配階級を養うためにのみ存在意義を持つ。勤勉な労働者は賞賛されて当然だが、社会に何ら貢献せず他人に負担を与えるだけの虚弱者や障害者に生きる権利はない――それがルドルフ大帝以来の帝国の論理であった」(第3巻)
問題は、このような不公正な社会体制が、なにゆえ、宇宙時代の人類を500年間にもわたって呪縛しえたのか、という点である。
それが最大の疑問である。
私が思うに、これは貴族が課税を免除されていたことと無関係ではないと思う。
というのも、たとえばイギリスのピューリタン革命やフランス革命による共和制の樹立も、もとはといえば国王が議会に対して新たな課税を要求したことに端を発している。
イギリスの場合は、反国王派となった議会勢力の大半はジェントリと呼ばれる地主階級であった。彼らが「われわれの同意もなく勝手に課税するのはまかりならん」ということで、 国王と対決する道を選んだのである。
また、フランスの場合は、とくに新興勢力であったブルジョワが課税に対して強硬に反対した。
当時のアンシャンレジームと呼ばれる旧体制は、国王と特権階級である貴族・聖職者によって構成されていた。しかし、富裕な商人階級の台頭や専制者の主権・権威を理論的に否定した啓蒙思想の普及、またそういった思想に通じ、かつ特権に拠らずとも才覚で稼ぐことができる自由主義貴族の登場などによって、さしもの強固な階級支配にも亀裂が生じていた。
そこに課税問題が重なって、一気に激発したのである。
以上のような歴史を鑑みると、銀河帝国の国庫が極度に貧窮し、「特権階級である貴族に対して課税をする」方針を打ち出さざるをえないところまで皇帝なり宰相なりが追い詰めら れないと、帝国で特権者による皇帝専制打破の動きは起こりえないと思われる。
また、さらに民衆による共和革命にまで進展するには、
- 「平民の大商人 (ブルジョワ) が台頭して大きな力を持ち始める」
- 「啓蒙思想が普及し、社会体制の在り方について誰もが疑問を持ち始める」
という二点が、帝国社会にとって絶対条件ではないかと思われる。
このように仮定した時、帝国の特権支配の構造が、宮廷レベルでは権力闘争や暴君の出現によって揺らいだものの、「総体」として盤石であったのもうなずける。
「財務官僚のなかには、貴族に対する課税を口にする者もいたが、それはルドルフ大帝以来の国是を変更することになり、叛乱や宮廷革命を招きかねなかった」(第1巻)
そう、これこそが共和政の出現を阻む最大の理由なのである。
このような“国是”がある限り、帝国の貴族階級は、皇帝専制に対して絶対の忠誠を誓い続けるだろう。
そもそも、課税されないということは、たとえば平民と商業上の競争をする時でも、最初から有利な条件にあり、一定の資産さえあれば「金利」によって財が膨らむ一方ということを意味する。
もちろん社会にプラス・マイナスはないので、彼らが甘い汁を吸う分は、どこかできっちりと平民の負担になっている。
また、啓蒙思想に関していえば、帝国ではとくに厳格に取り締まりが行われているようだ。 そのための機関として帝国には「内務省社会秩序維持局」が存在している。
銀河帝国には、ルドルフが死去した後の共和勢力の大反乱という苦い幼児体験があり、また実際に共和主義を信奉する自由惑星同盟なる外敵が存在している。
おそらく、帝国の貴族階級にとって、自分たちの生存を脅かす共和主義は憎悪の的であるに違いない。
以上のように考えると、銀河帝国で民衆の自発的意志による共和革命というのは、まず起 こりえないことのように思われる。
おそらく啓蒙思想の普及による人民の啓発どころか、20 世代にわたって意図的に愚民化政策が行われている帝国では、農奴体制の打破すらも至難の業だと思われる。
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