ヴェスターラント虐殺を肯定するオーベルシュタインの論理
さて、この問題が蒸し返されたのが、宇宙暦800年、新帝国暦2年8月の時である。
ラインハルトが、新設された戦没者墓地の完工式に出席した際、妻子をヴェスターラントで失った男が強烈に彼を指弾した。
その時に、オーベルシュタインは出て来て、虐殺の黙認を正当化する論理を次のように説明している。
「ヴェスターラント虐殺の件で、ブラウンシュヴァイク公の人望は完全に失墜した。人心 は彼から離れ、門閥貴族連合は内部から瓦解し、ゆえに内乱の終結は少なくとも3カ月早 まった。もし内乱が3カ月長引けば、新たに加わる死者の数は1千万人を下ることはなかっただろう。あの時点で、ブラウンシュヴァイク公に代表される貴族連合軍の本性を暴き えたからこそ、1千万の死者を出さずにすんだのだ」(OVA89話)
もし、この見解が本当に正しいなら、最終的な犠牲者の数は、虐殺を阻止するより黙認した方が少なくてすんだということになる。
単純な数字の次元で論じるなら、1千万人よりも、200万人の犠牲を選択した方が、広義の意味で人道的という解釈も不可能ではないかもしれない。
それに、この虐殺行為が旧体制の象徴的事例となり、相対的にローエングラム王朝の道徳的立場が強化されて、王朝の安定に寄与した事実も見過ごせない。
王朝が不安定であれば、内乱の危惧を孕んだ形になり、またいつ何時、民衆が巻き込まれて大量に犠牲にならぬとも限らないからだ。
以上のような理由から、「ヴェスターラント虐殺を黙認したのは正しかったか?」という問いに対しては、「単純に是非を論じられない。すなわち、絶対的に間違いとも言い切れない」というのが私の考えである。
もちろん、このような考えを「犠牲の当事者でないから易々と正当化することができるのだ」と一蹴する人もいるだろう。
妻子を殺された男の悲痛な叫びも、それを告発している。
「貴様ら権力者はいつもそうだ! 多数を救うためにやむなく少数を犠牲にしたと、そう 自分たちを正当化するんだ! だがその犠牲になった少数の中に、貴様ら自身や、貴様ら の親兄弟が入っていたことが一度だってあるかーっ!」(同話)
これはこれで、糾弾された側も返事に窮するほどの論理である。
たしかに、切り捨てられる側に立たされた弱者には、容認できるはずもない。
虐殺の黙認を進言したオーベルシュタインの決断が本当に正しかったのか、間違っていたのか、これは簡単に結論が出る議論ではないようだ。
ラインハルトと帝国軍の諸将たち――名提督列伝
帝国キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-63
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