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ミッターマイヤーにみる正義と義侠心

帝国キャラ編

「『疾風ウォルフ』は、つねに若々しく、軽快で、豪胆で、まっすぐ前方を見つめ、上に媚びず、下に優しく、全体像は明るく澄んだものだった」(第9巻)

彼のこういった資質は生来のもののようだが、後天的な要素も大きいと思う。

ミッターマイヤーは、幸せな家庭で生まれ育ち、身近には早くから生涯の伴侶となる女性もいた。つまり、彼は幼い頃からの精神形成の過程で、生活の悲惨や親子関係のストレス・不安、また他者からの酷い悪意などにさらされたことがなかった。

そういう理想的な環境が、彼をして正義感や義侠心といった善性に富んだ人間へと成長させたのだろう。そういう意味で、精神的外傷(トラウマ)の深さゆえ、「正常な恋愛をしてノーマルな家庭を営む」という当たり前のことができないロイエンタールに比べて、かなり幸運な育ちであったと言える。

彼が身を滅ぼすような野心に突き動かされず、カイザーの一臣下として「満足する」ことを知っていたのも、心に深刻な飢餓感がなかったからではないだろうか。

実際、ミッターマイヤーは、人間の負の領域に属する行為――裏切りや陰謀、卑怯・卑劣、弱い者いじめ等――に対して、人一倍強い慣りを覚えるようだ。

しかも、彼が単なる「純粋真っすぐ君」や口先だけの「正義君」でないことは、数々のエピソードが証明している。

原作版の「クロプシュトック事件」(*)では、クロプシュトック侯爵領で貴族討伐軍による嗜虐的な略奪と敗残者狩りが行われた。

この時に、ミッターマイヤーは老婦人を虐殺した貴族を捕らえ、しかも相手に銃での私闘の機会も与えた上で射殺した(しかも相手が先に発砲するのを見届けてから引き金をひいた)。そして、彼の弾劾は、その貴族の親族にして討伐軍の総司令官でもあったブラウンシュヴァイク公に対しても容赦なく向けられた。

本来、打算家なら公爵に対して命乞いをするところであったが、この時の彼の怒りは自らの一命をも顧みることがないくらい大きかったのである。この出来事は、彼の正義感が自己の保身の域すらも越える「本物」であるということを証明している。

だからミッターマイヤーは、帝国軍がフェザーンを占領した時も、民間人に対する暴行に及んだ兵士をサンテレーゼ広場で即刻、処刑したのだ。

ミッターマイヤーは兵士の「非行に対しては容赦というものを知らず、厳罰ぶりが彼らを戦慄させた」(第4巻)という。

「いいか、ウォルフガング・ミッターマイヤーに二言があると思うなよ」(OVA44話)

彼はこう叫んで、帝国軍兵士の規律を正した。この時の言葉には、悪を心底憎む心情が見て取れる。

彼こそは、ローエングラム新王朝における理想的な軍人像であるに違いない。

ただ、その強い良心の束縛が、必然的にその思考と行動の「足枷」になっているのも事実である。この辺りが平然と権謀術数を駆使できるオーベルシュタインとの違いだ。

もちろん、それを「欠点」として指摘しているのではない。ただ、地球教やルビンスキーのように国家に対して悪辣な陰謀をめぐらす者に対しては、同じ権謀術数をもってカウンターにあたる必要性も時としてあるのではないか、ということである。

ミッターマイヤーは、かつてオーベルシュタインに向かって次のように発言した。

「謀略によって国が立つか! 信義によってこそ国は立つ! 少なくともそう指向するの でなければ、ゴールデンバウム王朝と何ら変わらぬ!」(OVA64話)

いかにもミッターマイヤーらしい意見であるし、まったく正しいと私も思う。

だが、状況によっては、毒には毒でもって対処しなければならない場合も、為政者たる側にはある。それゆえに、オーベルシュタインのような人材も、やはり新帝国には不可欠ではないかと思う。つまり、両者は「車の両輪」のようなものだ。

ミッターマイヤーは、その性格的な長所のゆえ、謀略の類いを忌避している。しかし、彼がラインハルトの「オーベルシュタイン登用」を「誤り」などと断定したことは、「狭量」とまでは言わねども、いささか大局や現実を欠く感が否めない。

もっとも、誰でも理性で本音や感情まで制御し切れるものではないので、「とにかくあのオーベルシュタインのやつは・・」という彼の反発も分からないでもない。

「ミッターマイヤーは単なる戦術家ではなく、戦略家としての識見をそなえていた」(第8巻)という。しかも、彼はその聡明な知性を義に反することには決して使わない。

「正義」という言葉を安易に多用するのは問題だが、やはりミッターマイヤーを「正義の男」と呼ばずして、誰を正義と称せようか、という気がするのだ。

(*)原作版の「クロプシュトック事件」は、OVA版の1年前(帝国暦486年)の出来事として描かれている。この時、ラインハルトはまだ大将であった。また、爆弾テロの様子も、パーティー会場の侯爵の指定席に置かれた「黒いケース」が爆発したとなっている。さらに侯爵は領地星に逃げ、そこにブラウンシュヴァイク公の討伐軍が乗り込んで平定に1カ月も要したとなっている。この討伐軍に「戦闘技術顧問」として参加していたのが、ロイエンタールとミッターマイヤーであった。

ラインハルトと帝国軍の諸将たち――名提督列伝

帝国キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-63

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