思想的巨人としてのヤン・ウェンリー「政治体制について」
言うまでなく、ヤンは「国家は民主共和体制であるべきだ」と思っている。専制政治が名君の手にゆだねられた時、改革が激的に履行される利点は承知し、現にラインハルトによって行われつつあるそれを是としてはいるが、それでもなお「私は最悪の民主政治でも最良の専制政治に優ると思っている」(OVA51話)と語っている。
ヤンは、ラインハルトと会談した時、彼の説く専制政治の存立意義に対して、「人民を害する権利は、人民自身にしかないからです」(OVA54話)と否定してみせている。
ヤンは次のように語っている。
「専制政治の罪とは、人民が政治の失敗を他人のせいにできるという点に尽きるのです。その罪の大きさに比べれば、百人の名君の善政の功も小さなものです」(同)
もっとも彼自身は、同盟の現実が民主主義の理想と垂離していることに幻滅を覚えていた。それでもなお、彼はその同盟の現権力体制のために、救国軍事会議やラインハルトと戦わねばならなかった。彼はこの二律背反の板挟み状態にあっても、なお民主主義の正しさを信じていたからこそ、少しでもそれに近い方を選択したのである。
ヤンは二元論的な考え方をしない人間である。
実際、民主主義も、人間は必ず誤りを犯すという前提に立って、少数意見の黙殺を否とし、異なる価値観の併存を是認している。だから彼は、「共和政治は善で、専制政治は悪」などという、同盟国民の一部に見られる短絡な思考を忌避している。
ヤンは、「専制政治自体は絶対悪じゃない。ただの政治の一形態に過ぎないのさ。要はそれをいかに社会のためになるように運営していくかだ」(OVA33話)と語っている。
つまり、ヤンは、民主共和制を「ベターな政治体制」として認めているのであって、「絶対的に正しい」という「信仰」をしているのではない。彼は別にデモクラシー教の教祖ではなくて、様々な要素を相対的に思索した結果、民主主義がより人類の福祉に貢献すると判断しているに過ぎないのである。
このように、ヤンの思想が概してバランスに拠っているのは、やはり人類の無数の経験を比較検討し、物事を大局から眺望することが可能な彼の歴史的教養が大きく関係しているのではないかと思う。
ヤン・ウェンリーと同盟軍の仲間たち――イレギュラーズ伝説
同盟キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-366
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