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ヤン・ウェンリーが嫌いなものから見えてくる彼の価値観

同盟キャラ編

ヤンの人生はラインハルトと極めて好対照であるように思う。ラインハルトは、自らの意志によって人生のコースを選択してきた。

だが、ヤンの方は、常に自らの意志とは裏腹の人生を歩まざるをえなかった。

彼は歴史を無料で勉強したいがために士官学校の戦史研究科に入学したが、学科が途中で廃止されてしまう。しかも、「ただほど高いものはない」という診のごとく、ヤンはこれによって「軍人」という、彼がもっとも不本意とする職業に就かざるをえなくなってしまった。

そして、いったん軍人になってしまったら、今度は年金の受給資格をえるまでには十年は在籍しなければならなかった。

当初、ヤンは統合作戦本部の記録統計室に勤務していたが、仕事ぶりがおもわしくないため「半ば懲罰的」(外伝1巻)に最前線に送られてしまう。

だが、そこで彼は「エル・ファシルの奇跡」を演じてしまった。

以来、彼はまるで見えない神興にかつぎ上げられるかのようにして昇進を重ね(*)、退役のチャンスもことごとく逸し、まったく望まないにも関わらず、ついに同盟軍最年少の元帥にまで列せられてしまった。

だが、それでも彼の軍人嫌いは終生変わらなかった。

「ヤンは、軍国的な価値観、思考法、言動、表現のすべてを嫌悪した。後世、ヤンが『矛盾の人』とも呼ばれる所以である」(第5巻)

「軍人のような、文明にも人道にも寄与しない稼業は早くやめて、のんびり年金生活を送 りながら生涯に一冊歴史書を書きたい彼なのである」(第4巻)

「軍人らしい美徳とされる属性――愛国心、服従心、規律、勤勉などとは、およそ無縁であった」(外伝1)

しかも、ヤンは軍人が嫌いなだけでなく、彼自身、実際に軍人らしからぬ風貌だった。

「彼は容貌からいえば、線の細い、なかなか芽のでない青年学者を思わせ、いっこうに軍人らしく見えなかった」(外伝1巻)

「軍服を着用しているからこそ、どうにか軍人としての外見を保持しているが、それがな ければ、いっこうに芽の出ない学者の卵か、古書店の3代目経営者というところであった ろう」(外伝3巻)

つまり、ヤンは、軍人が嫌いで少しも軍人らしく見えないのに、軍人として最高の戦術的功績を挙げ、最高の地位に就任してしまったという、とんでもなくユニークな人間なのだ。

人生が軍隊にあると信じている者には、許し難い存在であるが、彼自身は事あるごとにままならぬ人生に不平をもらし、年金生活を夢見ていた。

もちろん、ヤンは、そんな人生の不条理に首を傾げつつも、与えられた状況下で常にベストを尽くした。

ちなみに、ヤンが嫌いなものは軍隊だけではない。彼は政治権力とその近辺に腐臭を嗅ぎ取り、ほとんど生理的ともいえる嫌悪感を抱いていた。

だから、ヤンは、権力者に対しては、時には子供っぽいとすら感じられるほど、突き放した態度をとったりする。

とくに査問会の時には、裁判ゴッコに興じる大物権力者たちを、毒を含んだ反駁で返り討ちにし、彼らを苛立たせることに意地悪いほどの手腕をみせている。

ヤンは、口にこそ出さないが、人間の品位に対して敏感なフシがある。

どうやら、それを計るバロメーターになっているのが、その人間が何を基準にして生きているか、ということであるように思われる。とくにヤンは、権勢欲や支配欲、名誉欲や出世欲、所有欲や物質欲の充足を至上価値としているような輩を嫌っている。

彼が軍人や政治家を本能的に嫌うのも、彼のそういった価値基準に権力や力を欲する人種が合致しないことが一因であるように思える。

ちなみに、利己的欲望が質的にも量的にも極小であるという点に関して、ヤンとラインハルトは近似した精神領域に住む人間かもしれない。

ヤンがもっとも嫌うのが、そういった権力者たちが戦争を扇動し、軍隊を動かし、有望な若者を死地に赴かせ、社会を衰弱せしめることである。

ここに、彼はもっとも醜悪なもの――最大級の社会悪・人間悪を見出している。ヤンは戦争というものの罪悪を知り抜いている。彼は次のよう言う。

「人間の行為の中で何がもっとも卑劣で恥知らずか、それは権力をもった人間や権力に媚をうる人間が、安全な場所に隠れて戦争を賛美し、他人には愛国心や犠牲精神を強制して 戦場へ送り出すことです」(OVA32話) (査問会にて)

「私が嫌いなのは、自分だけ安全なところに隠れて戦争を賛美し、愛国心を強調し、他人を戦場に駆り立てて後方で安楽な生活を送るような輩です。こういう連中と同じ旗の下にいるのは、耐え難い苦痛です」(OVA54話)(ラインハルトとの会談にて)

「人間の行為の中で自己犠牲がもっとも崇高な行為だとおっしゃるなら、他人を犠牲にして自己の保身をはかるのは、もっとも下劣な行為ではないのですか?」(OVA61話) (レべロに対して)

こういった言葉の節々に、ヤンという人間の価値観がよく表われている。

(*1)「28歳にして准将、29歳にして大将、32歳にして元帥――平和な時代であれば誇大妄想病患者の空想にとどまるしかないような栄達をとげたヤンは、同盟軍随一の智将といわれ、史上最高という過分な形容詞をつけられることもある」(第6巻)

ヤン・ウェンリーと同盟軍の仲間たち――イレギュラーズ伝説

同盟キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-366

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