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観察者としてのユリアン・ミンツ

同盟キャラ編

物語の終幕、カリンから今後の予定を問われたユリアンは、「軍人になって専制主義の帝国と戦う、そして、その任務が終わったら・・・」と答えた。

この後、彼の心の中に浮かんだその続きが、「歴史家になり、ヤン提督の事跡を記録して、後世に残したい」(OVA 最終話)という想いであった。

実際、この想いは実を結んだようだ。

「いずれにしても、ヤン・ウェンリーの生涯と事跡と思想とが、ほぼ完全な形で後世にむかって記録された点に関して、ユリアン・ミンツの功労を否定しうる者は、ひとりも存在しないのである。ユリアンの記録の正確さや客観性について、多少の疑問を投げかける者はいるにしても」(第9巻)

ユリアンは素直で誰からも愛される性格であり、学校でも優等生であった。また、聡明で年齢相応以上に落ち着いており、高い感受性の持ち主である。戦闘を行う軍人や、ビジネスを行う商人、ルーチン公務をやる官僚などより、文化・芸術方面に関して学究的な仕事を行う職業の方が、ユリアンにとってはるかに向いていると思われる。

ここに、歴史家として、いや時代の観照者としての彼の資質を見出すことができる。

ユリアンとヤンとの出会いは、彼が12歳の時であった。トラバース法(*1)によってヤンの養子となったユリアンは、以来、生活無能力者としてのヤンの窮状を憂い、彼のために料理名人になって、うまい紅茶を入れつづけた。

ユリアンは、本来、軍人タイプの人物ではない。彼が軍人の道を選んだのは、あくまでヤンに迷惑はかけられないという律義な思いと、敬愛するヤンのそばにいたいからである。

こうして彼は軍属としてヤン艦隊に配属されることになったのだが、ここで面白いのは、 それによって彼を取り巻く登場人物たちと、彼らの紡ぎ出すリアルタイムの歴史に対して、 新たな視点が加わったということである。

つまり「ユリアンの視点」である。

彼は周囲に比べて年齢的に一回り下であるせいか、ヤン艦隊全体を精神的に離れたところから観察できる立場にいたともいえる。

彼の目から見たヤン艦隊は、さしずめ「軍人不適合者の集団」といったところである。

シェーンコップ、アッテンボロー、ポプラン、キャゼルヌなど、各々が自分だけは「まとも」だと思いながら、周りの者を「性格異端者の不良軍人」扱いしている。

ヤンでさえ、その仲間に入っているかもしれない。その構図がどうしようもなく喜劇的であることに気づいているのは、艦隊内を唯一、客観的に観察しているユリアンくらいのものであるように思える。

もちろん、だからこそ彼は、ヤン艦隊の雰囲気とそこに集う仲間たちを、どうしようもなく愛しているのである。ユリアンは日記に、次のように記している。

「イゼルローン要塞は、ほんとうに悪口雑言、皮肉、いやみ、毒舌の宝庫だと思う。だけど、ほんとうに相手を傷つけるようなことばが交わされるのを、ぼくは聞いたことがない」(外伝2巻)

偽悪主義者というのは、自分が善人だと周りから見られるのを嫌う。仲間に対する思いやりや善意も、そうと受け取られるのが恥ずかしいので、あえて悪意を装う。

ヤン艦隊の雰囲気というのも、これに近く、皮肉や毒舌の応酬はあくまで「優しさ」の裏返しなのだ。そして、それに気づいているユリアンは、彼を囲む仲間たちの人柄に強く魅了され、家族のようにすら思っている。

ユリアンが後世、歴史家として時代の記録者たりえたのも、彼の人生の中で、そんな仲間たちに囲まれたイゼルローン時代が、特別な思い出として残っているからである。

ヤン・ウェンリーを含めた仲間たちが鮮烈であったからこそ、それを後世に記録として残したいという欲求も強まったのではないか。

とくに彼にとってヤンは特別の人だった。家族であり、敬愛する人生の先輩であり、アーレ・ハイネセン以来の民主共和制の体現者であった。

だから、彼について記録することは、ユリアンの生涯を賭けた使命なのだ(*2)。

ヤン・ウェンリーは唐突に亡くなってしまったが、「戦略について、戦術について、歴史について、同時代人について、政治や社会について、そして紅茶や酒について」の断片的なメモリアルが遺された。「それらの、無秩序な思惟や言行の破片を、整理し、再構成し、自分なりの注釈をほどこす」(第9巻)ことが、ヤンという人物を後世に伝える責務を担ったユリアンの仕事になった。

そして、彼は黙々とそれをやり遂げたのである。

ユリアンはヤンから用兵を、シェーンコップから射撃と白兵戦を、ポプランから空戦技術を学び、それぞれに水準以上の能力を示した。

だが、彼は本来、客観的視点から物事をみて、本質を描写することに卓越した才能を有する人物なのではないかと思うのである。

(*1)正式名称は「軍人子女福祉戦時特例法」。発案者の名をとって「トラバース法」と通称される。「親族のない戦争孤児の救済と、人的資源確保の一石二鳥を目的として作られた」(第1巻) そうで、キャゼルヌなどは「要するに中世以来の徒弟制度と思えばよろしい」などと皮肉っている。養育費を政府から貸与された孤児が軍隊関係の仕事に就けば、返還が免除される。

(*2)「ユリアンは毎日すこしずつ資料を整理している。いつか『ヤン・ウェンリー伝』を記述する日にそなえて」(第9巻)

ヤン・ウェンリーと同盟軍の仲間たち――イレギュラーズ伝説

同盟キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-366

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