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ヤン思想の継承者としてのユリアン

同盟キャラ編

「誰に話す必要もない。自分自身に対して確認しておこう。ぼくにとって、ヤン・ウェンリーと、民主主義と、国父ハイネセンの建国した自由惑星と、自分自身の未来とはひとつのものだ、と」(外伝2巻)

このような純粋な想いを決して捨てなかったからこそ、ユリアンは、ヤンの意志を受け継いで、後世に民主主義の種子を残すことに成功したのだと思う。

彼にとって幸運だったのは、ヤンという一種の社会不適格者の非保護者となったおかげで、へンに社会の現実にアジャストしようとする世慣れした「大人」へと成長しなかったことである。世間的にいって「大人」になるということは、「青臭い理想」を捨てて現実と妥協することでもある。

だが、ヤンは「信念」という発想を忌避しつつも、民主共和政治の理念と理想とを純粋に信じつづけ、腐敗した同盟社会の現実に決して迎合しなかった。

一見、軟弱そうにみえるヤンだが、この生き方だけは頑として護持し、社会的地位や金銭のために、理想を犠牲にすることだけはしなかった。

この彼の姿勢が、ユリアンの精神的発達に良い影響を与えたことは言うまでもない。彼もまた純粋に理想を抱きつづけ、目先の保身のために現実に屈することはしなかった。

ところで、ヤン亡き後、もしもユリアンが「ヤン・ウェンリーの非保護者であり用兵学上の弟子」という理由でイゼルローン共和政府の軍事指導者に選ばれていなかったら、民主主義の根は絶えていたかもしれない。

当時、キャゼルヌら周囲は「ヤン・ウェンリーという恒星の残照を、誰がもっともよく反射するか」ということを考えてユリアンを選んだ。

しかし、この象徴としての理由以上に、何よりも彼が身内としてヤンの思想や思考に通じていたという事実が、後の歴史の展開にプラスに作用したようだ。

明かに、ユリアン以外に、ヤンの「理想」を継承できる人間はいなかったのだ。

「ヤン・ウェンリーの生前の言動や思考について、ユリアンには膨大な記憶があった。それが量的に増加することは、もはやない。若者はそれを整理し、系統だて、彼に課せられた責任を実行するときの指針とせねばならなかった」(第8巻)

この記憶によって、彼はヤンの思考の延長上にある発想を行うことが可能となった。そして、それが結果的に民主共和制の存続をもたらしたといえる。

カイザー・ラインハルトと戦って一定の勝利を獲得し、それをもって交渉の資格があることを証明するという考えは、元はヤンの考えであり、ユリアンがそれを継承した。

このようなユリアンの外交センスの源泉にあるのは、やはりヤンの影響である。

ユリアンはヤン亡き後、思索家に変貌し、帝国に憲法をつくらせて「銀河帝国それ自体を、専制国家から立憲国家に変質させてしまう」(第9巻)ことを思いつく。仮に、ユリアンがヤンの思想に通じていなかったら、このような発想も思い浮かばなかったかもしれない。

「民主共和政治の健全な遺産を後世に伝える、そのことに成功してこそ、『伊達と酔狂』は完結する」(第9巻)というユリアンの考えは、彼の理想であると同時にヤン・ウェンリーの遺志でもあった。

そして、ユリアンは、「イゼルローン軍は民主共和政治を守護するために戦う軍隊である」ことを表明するために、強大な新帝国軍と一戦まじえる決意をする。

これは、大変な決断である。というのも、敗北すれば宇宙から民主共和制が根絶されるリスクがあるからだ。だが、一方で、戦わぬ限り、未来を切り開くこともできない。

彼我の戦力差からいえば、これは賭けに近い決断だと言える。

だが、ユリアンは多大な犠牲を出しながらも、ブリュンヒルトにいるカイザー・ラインハルトの前にたどり着いて、交渉者の資格があることを証明してみせた。

すなわち、民主共和政の理想のために血を流してみせ、カイザー・ラインハルトの価値基準に応えたのだ。

彼はラインハルトと会談して、「イゼルローン要塞を帝国軍に引きわたすこと。惑星ハイネセンをふくむバーラト星系を自治領として内政自治権を与えること」(第10巻)の2点について、完全な同意を得ることに成功した。

まさに、ユリアンが、ヤンの用兵学上の弟子であったということ以上に、何よりも思想的な後継者であったからこそ、ヤンの遺志通り、後世に民主主義の種子を残すことに成功したのである。そして、「いつかは帝国に憲法を制定させ、議会を開設させ、憲法の修正をかさねて、帝国全体を開明的な方向へ動かしていく」という夢を、彼は抱く。

こういった発想も、ヤンの思想的影響を発展させることによって生まれたものだろう。

ただ、そこから先は、英雄たちの志を受け継ぐ新世代の役割に違いない。

ヤン・ウェンリーと同盟軍の仲間たち――イレギュラーズ伝説

同盟キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-366

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