ラインハルト、その比類なき業績
たったひとりの人間にこれほどのことができるのだろうか?
若干、25歳で逝去した希代の大英雄ラインハルト。彼の業績はあまりに凄まじい。
10歳の時に姉を後宮に連れていかれると、強大な力を手に入れるために軍人になることを決意して、幼年学校に入学。15歳で卒業すると、以来、武勲を重ねて昇進し、わずか一歳で帝国元帥にまで登り詰めた。
そして、ラインハルトは、貴族連合軍との内乱を機に、5世紀にわたって民衆を不当に搾取しつづけてきたゴールデンバウム王朝を武力によって打倒。250億の民を擁する帝国の独裁権を手中にした。
以来、ラインハルトは驚くべきスピードで社会改革を成し遂げていく。
「彼のやったことを見たまえ。貴族特権の廃止、荘園の解放、民法の制定、税制改革、農民金庫の新設(*1)、さらには言論の自由の保証、これらはすべてわれわれが求めていた改革そ のものではないかね」(OVA27話オイゲン・リヒター談)
「特権と富を独占していた貴族階級は、五世紀にわたる不当な栄華を失い、平民は税制度と裁判の公正化を喜んでいる。病院、学校、福祉施設が貴族の邸宅や城館にかわって都市景観の一部となりつつあった」(第6巻)
まさに「上からの革命」である。民衆の蜂起に代わって、ラインハルト個人が悪逆な専制体制を打倒したのだ。そして、かつてのフランス革命やロシア革命さながら、貴族の特権を徹底的に廃止し、社会の公正化・開明化を推進していく。
ラインハルトは、民衆の労働の成果を不当に搾取して特権にあぐらをかいていた大貴族たちを一気に処断した。
「経済の再建はすでに問題ではない。リップシュタット盟約に参加した門閥貴族の財産(*2)を国庫に収めることで、財政赤字は一挙に解決した」(OVA27話)
こういった改革は、ラインハルトが少年時代から胸の奥で育んできたものだったそうだ。彼は自己の義務と責任として、民衆のための政治をした。
さて、ラインハルトが覇者として空前絶後なのは、こういった内政面の充実に留まらないことである。彼は帝国のみならず、人類社会全体の構造変革をも、その壮大な戦略によって成し遂げるのだ。
ラインハルトは、旧来の慣習によって守られてきた自治領としてのフェザーンを滅ぼして、イゼルローン回廊を必要としないシステムを構築した。そして、彼はフェザーン回廊を通 って帝国の長年の宿敵であった叛徒ども(すなわち自由惑星同盟)を戦争に敗北させた。
こうして彼は皇帝となり、新たにローエングラム王朝を開闘する。
ラインハルトは皇帝となってからは、親政の体制をとり、自ら執政を担当した。彼は典礼省を廃して、新たに工部省と民政省を設けた。
典礼省とは、大貴族の利害を調整して、家門を審査し、結婚や相続を認可するための役所ということだ。
一方、工部省とは、ラインハルトいうところの、「運輸・通信・建設・生産および社会資本の整備、これらを総括して新帝国の国力そのものを増大させていくためのもの」(OVA55話)である。つまり、「巨大な帝国の経済的ハードウェアの建設と、社会資本の整備」(第6巻)を担当する役所である。
ラインハルトは、工部尚書に若くて有能な人材であるシルヴァーベルヒを任命し、また彼に「帝国首都建設長官」という役職も与えて、同盟の領土を完全併呑したあかつきには、フェザーンへ遷都する壮大な構想をも抱いていた。
しかも、彼は工部省の巨大な機構と権限を永続させる意思はなかった。「いずれ国家機構と社会体制が安定すれば、工部省の機能は民間に移管し、組織を縮小する」(OVA66話)つもりであったという。
なんと、ラインハルトは、官僚組織が肥大化して民需を圧迫する危険性をも事前に察知して、対策を講じているのだ。彼は経済政策に関しても一流の見識の持ち主なのである。
ラインハルトの究極の日的は全宇宙の統一である。
そのために自由惑星同盟が「バーラトの和約」(*3)違反を行うと、その非を打ち鳴らして、再度の侵攻を敢行し、ついには宇宙の片側の異なる体制を滅ぼして、完全併呑を成し遂げた。
こうして、「ラインハルトは、歴史上に空前の戦略家として、イゼルローン回廊を必要としない政治的・軍事的な統一体を、ほぼ完成させた」(第10巻)のである。
ハイネセンから脱出したヤン一党の立てこもったイゼルローン要塞を除いて、彼は史上もっとも広大な空域を有する大国家の創始者となった。
そして、この広大な恒星間宇宙帝国を統治する中枢として、地政学的な中心でもあるフェザーンに遷都を行う。
全宇宙の統一・・・まさに人類史上無比の偉業と評してもいいだろう。
ラインハルト・フォン・ローエングラムは、その偉業を20代で成し遂げた。時代に冠絶した人物として、歴史上に彼ほどの足跡を残せる人物は、今後永久に現れないかもしれない。
戦争の天才、獅子帝、黄金の豪奢な髪をもつ美貌の若者、政戦両略の天才、王座の革命家・・・ラインハルトという人物の美と才能を称える言葉には事欠かない。
だが、彼は別に超人ではなかった。普通の人間であった。ただし特殊な条件がそろったという点では、たしかに普通ではなかった。そのことを次から見ていきたい。
*1・帝国の貴族階級はもともと税金を免除されていたそうで、「連年、出征をかさねてはいても、ローエングラム王朝の国庫は民衆レベルの福祉を充実せしめるのに、なお充分であった」(第8巻)という。
*2・おそらく地主から解放された小作人を自営農民に育てるために資金を貸し付ける制度だろう。
*3・宇宙暦799年5月、戦争に敗北した同盟と帝国との間に締結された条約。同盟にとって苛酷な内容となっている。
ラインハルトと帝国軍の諸将たち――名提督列伝
帝国キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-63
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