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騎士としてのシェーンコップ

同盟キャラ編

日本では「チャーミング」という言葉を女性に対してしか使用しないが、人格的魅力と性的魅力を兼ね備えたシェーンコップをみる時、私はどうしてもこの形容詞を思い出してしまう。

彼はまごうことなき「豪傑」である。

白兵戦という、人間の肉体能力がすべてを決する戦闘において、彼は誰にも負けない。トマフォークを振り回して敵をバタバタとなぎ倒していく様は、まるで火器が登場する以前の戦場で武勇を誇った古の戦士のようである。

しかも、彼はその種の軍人にありがちなマッチョな戦闘バカではなく、非常に優れた知性の持ち主でもある。彼は次のように言われている。

「シェーンコップは軍隊も戦闘も好きだが、妄想的軍国主義者でなかった」(外伝3巻)

もし彼が、勇猛果敢さに加えて、人間的魅力や知性も備えた人物でなかったら、いかに荒くれ男たちの集団であるローゼンリッター連隊とはいえ、頭目としての人望を得ることは難しかっただろう。彼は不敵で、大胆で、ふてぶてしい性格をしている。

シェーンコップは、軍のおエラ方にも決して娼びず、人を食った態度を隠さないタイプの人間である。つまり、軍組織としては非常に扱いにくい人材だ。

「シェーンコップの特技のひとつは、気にくわない相手を本気で逆上させる弁舌と態度で ある」(第6巻)という。「ヴァンフリート4=2」の基地司令官であったセレブレッセ中将のような小市民的な軍人ではとても扱える人材ではないだろう。

だが、彼は上司に対してただ闇雲に不服従な態度をとる人物ではない。

そういった性格の反面、自分が尊敬し信頼する人物に対しては、とことん礼を尽くす一面も持っているようだ。

シェーンコップは、ヤンにいわば「スカウト」された(*1)わけだが、彼の方でもヤンの指揮官としての能力や人間性を推し量っていたようだ。

どうやら、その彼の厳しい審査眼にかなった人物が、まさにヤンだったらしい。

シェーンコップがヤンの人格の特殊性に気づき、大いに興味を示すようになったのも、人間の本質を見抜く類い稀な眼力と政治的センスを兼ね備えていたからである。

同盟で軍事クーデターが発生した時に、シェーンコップはヤンの「矛盾性」(*2)をひとしきり指摘した後、次のように語っている。

「私に言わせればね、救国軍事会議の連中に今の権力者たちを一掃させてしまうんです。 徹底的にね。どうせその後やつらはボロを出して事態を収拾できなくなる。そこへあなた が乗りこんで掃除人どもを追い払い、民主主義の回復者として権力を握るんです。これこ そべターですよ。そうすることで初めてローエングラム侯に戦略面を含めて五分の戦いが できるようになる。そうではありませんか」(OVA19話)

この発言は、シェーンコップがいかに広い視野を持ち、また戦略的な思考ができる人物であるかを証明している。

興味深いことに、彼はヤンの人間性を信頼していて、ただ部下として従うに留まらなかった。彼は、ヤンが政治権力を掌握するよう、「悪魔のささやき」を繰り返した。

とくにバーミリオン会戦でヤンがついにブリュンヒルトをその射程に捕らえた時は、シェーンコップの勢いは、ほとんど掴みかからんばかりであった。

「さあ、政府の命令など無視して全面攻撃を命令なさい! そうすればあなたは3つのも のを手に入れることができる! ローエングラム公の命と、宇宙と、未来の歴史とをね! 決心なさい! あなたはこのまま前進するだけで、歴史の本道を歩くことになるんだ!」

この時、ヤンはいわば「天に試された」。

結局、過去の偉人と同じように独裁者に走ってしまうのか。それとも、あくまで一軍人に留まることで「後世の手本」となるのか・・。

この場面は、名場面が多い「銀河英雄伝説」でも白眉の一つであろう。

ヤンの決断は、ファンなら周知の通りである。

だが、シェーンコップは諦めが悪いというのか、その後もヤンへの「お膳立て」をする。中央検察庁に囚われの身になっていたヤンを救出した時も次のように言った。

「あなたのように常に命令をうけ法に縛られてきた人間が、そういった桎梏を逃れた時に、 どう考えどう行動するか、私には大いに興味がありましてねえ」(OVA62話)

そうやってヤンを「煽り」つつも、口にこそ出さないが、シェーンコップはヤンを内心で尊敬しており、戦士として、側近として、とことん忠義を尽くしている。

彼はヤンに対して、臣下のように卑屈に振る舞うわけではなく、あくまで友人のように親しく接するが、内心では忠誠心に近い感情を抱いているようにも思える。だからこそ、彼はヤンのために命も張れるし、危険もおかせるのだ。

すると、彼がただ単に上官に対して反抗的であり、鼻であしらうタイプというのは、まったくの誤解であることが分かる。おそらく、ヤン・ウェンリーと出会うまでは、彼が忠義を尽くすに足る水準の上官がいなかったというのが正解だと思われる。

そして、ユリアンがイゼルローンの軍事指導者を担ってからも、彼の権威を損なったり、立つ瀬をなくしたりする(俗にいうナメる)言動を一切行わなかったことから、ユリアンもまたシェーンコップから敬意を払われるに値する人物とみられたのだろう。

そういうシェーンコップの性格や振る舞いを見る時、彼こそは真の意味での「騎士道精神」の持ち主ではないかと思うのである。

(*1)OVA版では、トリューニヒト派の軍人とシェーンコップが衝突したところにヤンが居合わせているが、原作版ではこの場面はない。

(*2)「~あなたは矛盾の固まりだから。なぜかというと、まずあなたほど戦争の愚劣さを嫌っている人間はいないでしょうに、同時にあなたほどの戦争の名人はいない」(OVA19話)

「あなたは今の同盟の権力体制がいかにダメなものであるか骨身にしみて知っている。それなのに全力をあげてそれを救おうとしている。こいつも多いなる矛盾ですな」(同話)

ヤン・ウェンリーと同盟軍の仲間たち――イレギュラーズ伝説

同盟キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-366

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