フレデリカ・グリーンヒルに見習う一途な人生
「11年間の時間をようやく取り戻せたような気がしますわ。提督が私のファーストネー ムを呼んで下さったのは、エル・ファシル以来です。覚えてらっしゃいます?」(OVA51話)
ヤンがなけなしの勇気を振り絞って彼女にプロポーズしようとした時、フレデリカはこんなことを言った。
彼女にとって、ヤンはずっと「心の中の騎士」だったのだ。
フレデリカ・グリーンヒルは、あらゆる点からみて申し分ない女性である。
彼女はグリーンヒル大将という、尊敬できる良き父親をもち、士官学校を次席で卒業するほどの秀才だ。また、抜群の記憶力を誇り、副官としてはこの上なく有能である。性格的にも、健気で、負けん気が強く、それでいて女性的な優しさに溢れている。
唯一、料理だけは苦手なようだが、とりあえず、サンドイッチやクレープ、ハンバーガーなどの「挟むもの系」なら得意であるらしい。
だが、このような善良な人間が理不尽な運命に翻弄されるのが『銀英伝』なのだ。
実際、彼女の人生は、客観的に見て、かなり辛い経験に満ちている。
まず、彼女は母親に先立たれている。おそらく、病死(*1)による不慮のものであったろう。そして、次は父親である。あくまで政治に対する義憤からクーデターに立ち上がったグリーンヒル大将だが、実際には巧妙に外部から扇動されたものであった。
そして、彼は失意のどん底で死去する。
しかも、その間、フレデリカにとって、実の父親とは敵味方の関係であった。これほど残酷な運命もそうないだろう。
そして、その後はヤンである。長い間憧れてきたヤンと結婚し、新婚生活に入れたのもつかの間。再び、否応無しに激動の潮流にのみこまれてしまう。
結局、彼女の愛する人であるヤンも、非運にも謀殺されてしまう。
このようにフレデリカの人生は、愛する者との別れの連続である。
人生でもっとも辛い経験は、家族を亡くして独り生き残ることだといわれている。
だが、それでもフレデリカは、健気にも決して挫折しない。彼女は言う。
「私はヤン・ウェンリーと12年間もつき合ったわ。最初の8年間は単にファンとして、次の3年間は副官として、次の1年間は妻として。そしてこれから未亡人としての何年か、何十年かがはじまる」(OVA83話)
彼女は、もっとも悲しむ権利があるはずなのに、安易に人前で涙や落ちこんだ様子を見せない。それどころか、ヤンの死後、イゼルローン共和政府の政治指導者まで引き受けてしまうのだ。彼女は毅然として、次のように己の責任を自覚する。
「それに、残された者がここで挫折してしまったら、テロによって歴史は動かない、というあの人の主張を、私たちの手でくつがえしてしまうことになるわ。だから私は私の義務を果たすつもり」 (OVA83話)
なんという責任感であり、静かな威厳だろうか。
彼女の生き方をみていると、常に「真っすぐ=一途」であることが分かる。
14歳の時にエル・ファシルでヤンに出会ってからは、ひたすら彼のことを想いつづけた。そして、その憧れの人物の副官になると、精一杯の補佐をする。
ヤンが「査問会」に連れていかれた時は、必死で探し回った。彼と結婚してからは、キャゼルヌ夫人の下で料理修行にも励んだ。
また、ヤンが検察庁に逮捕されると、夫のボタンに発信機を入れておくイキな計らい(*2)でヤンの居所を見つけ出し、シェーンコップらと共に救出した。
そして、ヤンの死後は、彼の意志を継ぐ決意をする。
このように、フレデリカという女性は、辛い経験を重ねながらも、決して挫折しない。ひたむきに、胸を張って、常に真っすぐに歩み続けるのだ。
彼女こそ女性の鑑、人生の手本である。
(*1)エル・ファシルからの脱出後、首都に帰ったフレデリカが「母親の看病と士官学校受験の準備にはげむことになる」(第5巻)という記述からの類推。
(*2)最近では夜中に徘徊する老人に付けたりするそうな。
ヤン・ウェンリーと同盟軍の仲間たち――イレギュラーズ伝説
同盟キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-366
最近のコメント