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ヤン艦隊の真の実力者キャゼルヌ

同盟キャラ編

アッテンボローの他にヤンの士官学校時代からの知り合いといえば、アレックス・キャゼルヌが挙げられる。

ユリアンは日記に次のように記している。

「ヤン提督が士官学校の3年生だったとき、キャゼルヌ『大尉』が士官学校の事務局次長として赴任してきたのが、心あたたまる交友とかの始まりだったのだそうだ」(外伝2巻)

考えてみれば、アッテンボローを含めたこの3人は、実にフシギなトリオである。

まず年齢が違う。とくにキャゼルヌはヤンより6歳も年長で、知り合った当時は、単なる一学生と将来有望な軍官僚という間柄だ。

また、3人とも軍人志望ではなかった。(*)

どうやら、ヤンとその仲間たちの風変わりな印象の秘密が、この辺りにありそうだ。

個性の乏しい集団主義的な人間は、とかく同年齢の同質集団を形成することが多い。

とくに軍人の場合は「同期の桜」的な連帯感が強い。同じ釜の飯を食って厳しい訓練に耐え抜いたという事実が、特別な精神的絆をもたらすようなのだ。

ところが、ヤン艦隊はこれとはまったく違う。

異端者同士が有志的に連帯し、多種多様な人材を包含しながら大きく成長していく「開放型の集団」であるといえる。その結果、はっきり言えば、非行軍人の巣窟みたいになってしまったわけだが、逆に言えば、そのような人間たちだからこそ、強大な帝国を相手に最後まで屈することなく戦い抜ける反骨精神を持てたのかもしれない。

さて、そのような変わった集団の中にあって、後方担当として活躍してきたのがキャゼルヌである。

端的にいって、戦争を滞りなく遂行するためには、戦闘員と同数くらいの後方要員が必要であるといわれている。

古代からの戦争の常識として、前線を支えるためには、物資や人員、情報・指示などを常に送りつづけなければならないし、そのためには後方支援が健全に機能していなければならない。そして、それをコントロールするのが後方担当である。

もっとも、このように戦争において欠くべからず存在でありながら、一方で武勲を立てる華々しさとは無縁である。縁の下の力持ちとして、あくまで目立たない役職なのだ。

キャゼルヌが非常に優秀な後方担当であることは間違いない。

「社会に有益な才能をもつという点で、彼はヤンよりはるかに上である。士官学校に在籍 していたとき、組織工学に関する論文を書いて、それが何とかいう大企業の経営陣に認られ、スカウトされそうになった経歴がある。才幹からいえば、秀才官僚というタイプになるはずだが、悪い意味でのそれらしさはない」(外伝4巻)

なんでも、すでに士官学校の事務局次長時代から、「20年後には後方勤務本部長の座を手に入れるだろう」という評判だったそうな。

事実、その後に昇進を重ね、宇宙暦794年の第6次イゼルローン要塞攻略戦の時には准将(つまり将官)の仲間入りを果たしている。

ユリアンもその日記で、「考えてみると、キャゼルヌ少将は、前線で武勲をたてたりしたことはない。ほとんどデスクワークだけで、三四歳の時に少将になっていたのだから、たいへんな秀才官僚なのだ」(外伝2巻)などと感心している。

「ヤン艦隊のなかで、国家的規模での財政や経済を理解しうる者は、キャゼルヌくらいの ものである」(第7巻)

実際、「バーラトの和約」後にヤン一党が同盟政府から離脱すると、キャゼルヌは資金のことで悩み、ヤンに相談を持ちかけている。

たしかに、イゼルローン要塞には核融合炉というエネルギー供給源があるので、要塞を奪 還してしまえば、そこで自給自足することは可能だろう。

だが、造幣局まであるとは思えないので、ヤン一党に付き従う兵士たちに給料を支払うことまではできない。

事実、イゼルローンの孤軍奮闘時代は、かなり兵士の無報酬労働によって支えられていたと推測される。なぜなら、ヤンが暗殺された後に要塞を離脱する連中に対して、ユリアンが「それに給料や退職金を出せるわけでもないのですから」という理由から倉庫を解放して、彼らのために物資の搬出を許可しているからだ。

ともあれ、イゼルローン軍の運営資金のことまで頭を悩ましてくれるアレックス・キャゼルヌあってのヤン艦隊の存在であることは間違いない。

「キャゼルヌ少将がくしゃみをすれば、イゼルローン全体が発熱する」(第3巻)

そう言われているように、イゼルローン要塞の「管理運用実務」という「裏方」をこなせるのは、彼しかいないのだ。

ヤンが公園のベンチでごろ寝できるのも、シェーンコップが司令部でのんびりと酒を飲んでいられるのも、ポプランとアッテンボローが気兼ねなく漫才をやっていられるのも、はっきり言えば、キャゼルヌのような後方担当が陰で支えてくれているからだ。

とくにヤンにとって、彼の存在は、単なる役務以上に巨大だろう。

なにしろ、「尻尾のない悪魔」などと呼ばれながら、その実、ヤンの家族となったユリアンとフレデリカを彼のところへもたらしたのは、他ならぬキャゼルヌなのだ。

キャゼルヌという男は、偽悪を装いながら、その実、ヤンのために、最高の人物をしっかりと送り届けてきたのだ。

それにしてもキャゼルヌが夫人の尻に敷かれているのは気の毒である。

(*)「ヤンは歴史学者になれたらよいと思っていた。キャゼルヌは行政組織経営に興味を持っており、アッテンボローはジャーナリスト志望であった」(外伝4卷)

ヤン・ウェンリーと同盟軍の仲間たち――イレギュラーズ伝説

同盟キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-366

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