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老熟の人ビュコック

同盟キャラ編

ビュコックは、言うまでもなくヤン艦隊のメンバーではないが、その気質は紛れもなくヤンとその仲間たちと同一地平線上にある。

彼もまた「はみ出し軍人」であった。

「ビュコックの爺さん」は、ヤンが唯一尊敬していた同盟軍の上官だった。

「あの老人が生きている間、ヤンは彼に頭があがらなかった。現在もそうだったし、未来においてもさらにそうであろう」(第7巻)

彼は一兵卒からの叩き上げで昇進してきた苦労人であるせいか、部下思いで、陽気で堅苦しくなく、権威に媚びることがない。

とくに、卓越したユーモアと辛らつな毒舌は、豪胆でバランスのとれた彼の人柄をうかがわせる。長年、愛妻家として、夫婦仲睦まじく暮らしてきたことからも、短気にみえるビュコックの性格の本質が「人に対する優しさ」であることは論を待たない。

ヤンと同様、彼もまた軍組織においては異端者だったようだ。

ビュコックは、救国軍事会議によるクーデターの収束後、トリューニヒト派閥が席巻する軍内部において、孤軍奮闘を強いられたようだ。彼は秩序と調和を至上価値とする組織人ではなく、あくまで正邪の基準で行動する人間だ。

だから集団の圧力に屈して筋を曲げるようなことは決してしない。ゆえに周りからみると、 意固地で頑固、分からず屋、集団の和を乱す人物などと映ることもある。

彼もまた「反骨じじい」なのだ。

だが、こんなビュコックが誠実な人間であることは、分かる人には分かる。

ビュコックは、マル・アデッタ星域の会戦で、同盟国家の最後の艦隊司令官として、滅びゆく民主国家に殉じた。

老人は同盟の現体制がいかに駄目なものであるかを痛感していたが、それでも長年国家に仕えてきた身として、命運を共にする義理堅さを捨てなかった。

ビッコックは、民主国家の軍人であることを誇りにし、何よりも民主主義のために戦う人間だった。その姿勢ゆえ、彼は同盟国家の有り様を強く憂えていた。

ビュコックは言う。

「わしは帝国の非民主的な政治体制に対抗するという口実で、同盟の体制まで非民主化するのを容認することはできない。同盟は独裁国となって存続するより、民主国家として滅 びるべきだろう」(OVA45話)

「建国の理念と市民の生命とが守られないなら、国家が存続すべき理由などありはせんのだよ」(同)

そして、議長トリューニヒトの下で同盟が帝国軍に降伏する決定を下さんとした際には、次のように一席ぶった。

「要するに、同盟は命数を使い果たしたのです。政治家は権力をもてあそび、軍人はアムリッツァにみられるように投機的な冒険にのめりこみ、市民すら政治を一部の政治業者にゆだね、それに参加しようとしなかった! 民主主義を口で唱えながら、それを維持する努力を怠ったのです! 専制政治が倒れるのは君主と重臣の罪だが、民主政治が崩壊するのはすべて市民の責任ですからな!」(OVA53話)

しかし、そう言いつつも、彼はその国家を最後まで見捨てたりはしなかったのだ。

「何が智将だ、私は救い難い低脳だ!」ビュコックの死を知って

普段から「愛国心」を鼓舞する者や、集団の一員として自己を埋没させてきた者に限って、自分たちの存在を保証してきた体制が崩壊する時には我先に逃げ出して、結局、無責任さを露呈する。しょせん彼らは周囲の空気に合わせて生きてきただけだったからだ。

ところが、逆に反骨精神の固まりのような人間ほど、そんな非常時には進んで損な役割を引き受けたりする。ビュコックなどは、その典型であるように思える。

いずれにせよ、同盟軍にあってもっとも人格者といえる人物であった。

ヤン・ウェンリーと同盟軍の仲間たち――イレギュラーズ伝説

同盟キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-366

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