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トリューニヒトに見る悪の処世術

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政治権力というのは「両刃の剣」の面がある。

それを行使する者の人間性次第で、社会全体に益をもたらすこともできれば、逆に害をもたらすこともできるからだ。それゆえ、市民の中から選ばれた執政者に政治権力をゆだねると同時に、市民はその行使の在り方についても、厳重に監視しなければならない。

それが民主政治の要諦である。

この原則が壊れて衆愚政治と堕してしまったのが自由惑星同盟であり、その象徴がトリューニヒトであった。彼はまさに衆愚社会を映し出す鏡でもある。

同盟の議長職時代、トリューニヒトは次のような人物だった。

「彼は政治家としては少壮と呼ばれる年代で、すぐれた容姿と順風満帆の経歴を有し、女性層を中心に選挙民の人気もあり、軍需産業を背景として豊かな政 治資金力を誇っていた」(第5巻)

つまり、何よりも彼のような人物を選挙で当選させてしまう「大衆」がいるのだ。最大の責任者は、主権者・納税者・社会参画者という自覚のない大多数の市民なのである。

そういう自覚なき市民が社会を寡占する限り、権力者は好き勝手なことができる。

実際、トリューニヒトは、彼の権力欲を満たすために様々な利権に触手をのばしていた。

まず、国防委員長として軍需産業と悪着するのは、当然のことであろう。(*)

なにしろ権力者が主戦論を振りかざして戦争を煽れば煽るほど儲かるのは、軍需産業なのだから。

大勢の前線将兵たちが戦死する一方で、戦闘艦艇と武器・弾薬は消費されていく。

そして、その補充のために、市民の血税を湯水のごとく投入して、新たにメーカーに兵器を発注するのだ。近代戦争とは、この繰り返しである。

ベトナム戦争と湾岸戦争も、軍需産業の在庫一掃セールスと新兵器のテストという要素 が多分にあった。将兵たちが最前線でいかに悲惨な死に方をしようとも、戦争によって肥え太る軍産複合体と利権政治家がいる限り、自由惑星同盟の対帝国戦争も永久運動のように継続されるのだ。

だが、トリューニヒトの超人的なところは、この程度の利権漁りではすまないことだ。

地球教という、いかがわしい宗教とも癒着していた。

政治家と宗教団体という組み合わせは、別段めずらしくはない。

なぜなら、政治家にとって宗教団体ほど選挙の時に頼もしい味方はいない。票田・資金源・選挙サポーター供給源として大いに利用できるのだ。

特定の団体と懇意になり、支持を取りつけることによって、教祖様のお声ひとつで信徒の票がもらえる。だから信徒が多い団体ほど利用価値が高い。

また、一方の宗教団体側にとっても、自分たちの息のかかった政治家を中央に送りこむことによって、間接的に政治権力に介入できるのだ。

事実、日本の大教団のほとんどが政治家を支持する見返りとして利益誘導を受けている現実がある。

以上のように、互いが互いを利用して実益をえる関係として、政治家と宗教団体は癒着しやすいのだ。だから日本の政治家の中には、宗教団体から資金や人員のバックアップを受けている者がたくさんいるのである。

トリューニヒトと地球教の関係も、基本的にはこれと同じである。

両者は、己の野心を成就するために、お互いを利用し合う。ただし、彼らの場合、その野心たるやトンデモないものだが。

さて、トリューニヒトは、地球教の信徒と重複する形の私兵である「憂国騎士団」なる団体をも影で操っていた。

日本ではとくにそうだが、宗教団体の中には国粋主義的な考えを持つところが多い。

自由惑星同盟に支部を置く地球教の場合、帝国のそれと違って「聖地奪還(帝国領にある地球を取り戻す)」という独特のスローガンがある。

これは同盟の主戦論者の唱える「帝国打倒」と目的の方向性が一致するため、同盟の地球教と右翼は極めて結びつき易い素地があるといえる。

ともあれ、このような私兵・右翼団体を影でコントロールし、反対者や敵対者の弾圧を行っているというのも、トリューニヒトの「負の実力」の一つに数えられよう。

以上のように、トリューニヒトは、軍需産業から多額のリベートを貰い、地球教団と癒着し、憂国騎士団という私兵を率いて政界に君臨している。

また、見事な演説で人々の感情に訴えかけ、大衆を意のままに操作する扇動政治家としても一流の手腕を持っている。さらに、ネグロポンティやアイランズなどの子分を持ち、自由に閣僚に任じる実力もあるのだ。

ある意味、民主国家における政治業者として、トリューニヒトはこれ以上望めないくらい大成していると言えるだろう。

人民の公益に奉仕するのが政治家(ステイツマン)なら、その公益を私益で食い荒らすのが政治業者である。

その点、トリューニヒトなどは、最後には己の身の安泰のために国家をも売り渡してしまうのだから、とてつもなく非凡な政治業者と言わねばなるまい。

彼の生き方は、これから政治業者を目指す人にとって大いに参考になるのではないか。

(*) この近代の軍需産業なるものが萌芽したのは、南北戦争の時の銃器メーカーの頃からだといわれている。いわゆる死の商人として、プロイセン時代に大砲の製造を始めたクルップ社や、日本の重工業の雄としてゼロ戦を製造した三菱、アメリカのデュポン社やロッキード社、マクダネ ル・ダグラス社などが挙げられる。

陰謀と詐術と悪徳の世界――負と暗黒の人間像

その他キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-369

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