「銀英伝エゴイスト3兄弟」にみる悪の連帯関係
トリューニヒトは反逆に倒れようとしていたロイエンタールに言った。
「地球教を私が利用したのです。私は何でも利用します。宗教でも、制度でも、カイザーでも」(OVA98話)
事実、トリューニヒトは、同盟政治家時代に散々、地球教の世話になっていながら、帝国に移住するや、さっそくキュンメル男爵によるカイザー暗殺計画を暴露して地球教を売っている。その密告がもとで地球教の帝国支部と地球本部が壊滅させられたのだから、考え みれば、ものすごい裏切りである。
だが、その後に、ハイネセンの旧トリューニヒト邸にド・ヴィリエらが出入りするところをボリス・コーネフらが目撃している(OVA86話)ことから、依然、両者の癒着関係は続いていたようだ。つまり、トリューニヒトは地球教を帝国に売りながら、他方で平然と地球教と付き合っていたようなのだ。この神経は並ではない。
ただし、一方のルビンスキーや地球教も、トリューニヒトを利用しているつもりだった。
たとえば、ルビンスキーは、主教のデグスビィに対して、「同盟の権力者たちは国家を内部から腐食させるのに役立ちます」(OVA29話)と語っている。
つまり、ルビンスキー的には、同盟国家の弱体化を促進する要素としてトリューニヒトらを飼っていたつもりだったのかもしれない。
そして、トリューニヒトが帝国に移住してからは、おそらくは自らの復権のため、ルビンスキーも彼とコンビを組んで帝国の政官界を侵食していた。
また、地球教総大主教の方も、「籠の中の腐ったリンゴ」として「あの男も結構、役に立ったようじゃな」(OVA54話)というふうにトリューニヒトを評していることから、地球教としては彼を存分に利用していたつもりだったらしい。
他方、地球教とフェザーン自治領主の主従関係もまた、野心家のルビンスキーによって実質的に終止符が打たれていた。彼は「地球教などという代物と手を切るつもりだ」(OVA47話)と、情婦のドミニクに語っている。
むろん、一方の地球教の方も、ルビンスキーに疑いをもち始めていた。
とくに総大主教亡き後に教団の実権を掌握したド・ヴィリエの内面については、はっきりと次のように語られている。
「背教者アドリアン・ルビンスキー、あの男には酸素の一原子すら与えてはならない。ド・ヴィリエの憎悪と危機感は、精神的な血縁者にむけて増幅されたものであった」(第八巻)
もっとも、両者そう思いつつも、ロイエンタール反逆事件の時までは依然として協力関係が保たれていたようだ。
この三者の関係は本当のところ次のようなものだったという。
「ドミニク・サン・ピエールが提供した資料によって、旧フェザーン自治政府、地球教団、故ヨブ・トリューニヒトの三者による地下協商の存在が、かなり明かにされた。それは要するに、三者それぞれのエゴイズムにもとづく相互利用計画であって、真の協調体制などとは呼びえないものであった」(第10巻)
この三者は、物語の世界において、常に人々を悲劇へと追いやってきた「悪」だ。
ところが、それぞれが自分のために他者を上手に利用していると思いこんでいる構図が、まさに「喜劇」の様相を浮き彫りにしているのだ。
そう、彼らは巨大な悪を成しながらも、大局的にみれば、喜劇を演じさせられていたピエロのような存在だったのである。
ここにも、作者の強烈な皮肉が見て取れると考えるのは、うがちすぎだろうか。
陰謀と詐術と悪徳の世界――負と暗黒の人間像
その他キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-369
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