ラインハルトだけがなぜ覇者たりえたのか?
しかし、極端なことを言えば、姉を奪われる程度とは比較にならないくらいの酷い仕打ちを体制から受けてきた人は、たくさんいたはずだ。たとえば、不敬罪になった人や共和主義者として逮捕拷問された人がいただろう。
それらの罪で死罪や流刑になった人々やその家族などは、怒りも悲しみもラインハルトを凌駕していても不思議でははない。
その度に体制の打倒に立ち上がるというのであれば、ラインハルトが何千、何万人といてもおかしくはない。
だが、結果的にそれを成し遂げられたのは彼一人だった。
これは、やはり生まれながらの素質も関係しているということである。
実際、ラインハルトが示した優れた頭脳、誇り高さ、戦いを恐れない勇敢さなどは、生来の性質であったに違いない。
とくに、大局的見地から鳥職的に物事を見渡せる彼の戦略眼や政治的センスなどは、総合的な知性のなせる一種の才能であり、後天的な学習によって、そうおいそれと簡単に身につくものではない。
つまり、ラインハルトは、先天的に指導者にふさわしい資質を持って生まれたということである。もっとも、それでもなお若干20代で全宇宙の覇者となりえた説明としては不十分であろう。
彼の場合、その資質が最高度に生かされた条件も特記する必要がある。
ある説によれば、人間が持つ精神エネルギーの量そのものは、健康でない人を除いて、ほぼ同じであるという。
だが、当然ながら、普通の人間は生活する上でそのエネルギーを様々な方向へ分散投資する。しかし、ラインハルトは違った。彼の場合、精神的なエネルギーが「現体制の打倒と社会改革の実現」というただ一点に集約したのだ。
そして、その代償として、彼はそれ以外にはほとんど盲目になってしまったようなのだ。
「異常な才能というものは、一方で、どこかそれに応じた欠落を要求するものらしい。ラインハルト陛下を見ていると、そう思うなあ」(OVA89話マリーンドルフ伯談)
「ラインハルトはとくに禁欲的な人間であったというわけではなく、生理上の欲求それ自 体が、皆無ではないにしろきわめてとぼしかった。彼はその比類ない美貌と権力にもかか わわらず、肉欲と無縁に今日までをすごしてきたのである」(第9巻)
つまり、性的肉体的欲求、物質的な所有欲、快楽への志向、文化・芸術などの趣味への傾斜、事業欲や金儲けへの執着、恋愛への欲求などといった普通の人間がエネルギーを割くことに対して無関心である代わりに、その分がすべて目的の実現に振り向けられたのだ。
だから「ラインハルト - 覇者の性質 = ゼロ」と評しても極端ではないくらい、特定の方向に傑出した人間になってしまったのである。
したがって偉大な覇者も、ある面か見ると、「驚異的な無欲無趣味人間」(*)とならざるをえなかったのだ。
ヒルダと一夜を過ごすことになってしまった後、ラインハルトは覇者らしからない動揺を現しているが、この例などは彼という人間の別の側面を露呈しているといえる。
そんなラインハルトについて次のように評されている。
「政治や軍事にかけては、賢明であり、度量が広く、主観と客観との落差を完全なまでに修正しうるのに、男女間のことについては、まったくその反対だった」(第9巻)
「ラインハルトのこれまでの人生は、壮麗ではあっても多彩とはいえず、むしろ単純なも のであった。価値観が明確であり、目的がまた判然としており、そこをめざしてひたすら進んでいけばよかった」(第9巻)
彼はたったひとつの事のために、人間の持つすべてのエネルギーを投入してきたのである。だから、「ラインハルト・フォン・ローエングラムは『天才少年』なのだ」(第9巻)とマリーンドルフ伯は思ったという。
たしかに、彼は特定の分野のみに才能が傑出した神童のような人物なのである。
*ラインハルトの趣味とは?
いわく「ラインハルトにとって最大の趣味といえば、戦略や戦術を研究することで、それに関連して読書、三次元チェスなどもたしなんだが、芸術ないしその類似物には、ほとんど興味がなかった。せいぜい、音楽を人なみに好んだていどである」(外伝3巻)
ラインハルトと帝国軍の諸将たち――名提督列伝
帝国キャラ編目次 http://anime-gineiden.com/page-63
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